理系の学者が政治について語ると極端になりがちである。論理的な一貫性と現実的な効果に重きをおくからだ。そしてそれはときに、道徳の壁を軽々と飛び越えてしまう。本書が戦後長らく封印されてきたのもまた、そうした事情からだろう。
本書はセルゲイ・チャコティンという生物学者によるプロパガンダ研究の書であり、同時に彼自身の政治的闘争を書き留めた自伝的作品でもある。
チャコティンは犬の条件反射で有名なパブロフのもとで博士号を取得し、その後ロシア革命から反ナチス運動まで、プロパガンダの専門家として転戦した。反ファシズムという目的性を見れば、いかにも政治的に「正しい」人物と見えなくもない。しかし、彼の本質はあくまで生物学者だった。
チャコティンは、反ナチス運動のさなか、生物学の知見をプロパガンダに応用することを提案する。ナチスのプロパガンダによって「強奪」された大衆を同じ手法によって奪い返すのだ。そう主張するチャコティンの案に、しかし、歴史の表舞台でナチスに敗れ去ったドイツ社会民主党は及び腰だった。
たしかに、民主主義の本質が、人間の理性に対する信頼とそれに基づく説得プロセスにあるとすれば、チャコティンの主張は完全に道を踏み外している。
あくまでプロセスを重視しようとする微温的な民主主義者たちに対して、チャコティンの切った啖呵(たんか)は痛烈である。いわく、「毒ガスに聖人の図像や祈祷(きとう)で対抗しようとすることは、自殺の一形態にすぎない」。
こうしたチャコティンの過激な物言いは魅力的で、思わず快哉(かいさい)を叫びたくなる箇所も少なくない。しかし、その上であえて言うならば、本書の醍醐味(だいごみ)は、後半、反ファシズム運動を展開していたはずのチャコティン自身がファシスト的な思考に陥っていく点にこそある。
人は刺激に弱く、感情に流されやすい生き物である。そんな現実認識に立ちながら、プロセスとしての民主主義を信じ続けるのは容易ではない。本書から浮かび上がってくるチャコティンの人生は、民主主義の困難を体現している。これこそ本書が現在、世界中で復刊されつつある由縁(ゆえん)であるといえよう。(セルゲイ・チャコティン著、佐藤卓己訳/創元社・3500円+税)
評・長崎励朗(桃山学院大准教授)
"全体" - Google ニュース
February 23, 2020 at 09:00AM
https://ift.tt/2wzzkQx
【書評】『大衆の強奪 全体主義政治宣伝の心理学』 反ナチ運動のファシスト化 - 産経ニュース
"全体" - Google ニュース
https://ift.tt/37d5nT4
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

No comments:
Post a Comment